ステロイドが患者の身体にどういったインパクトをもたらすのか、あるいはダメージを与えるのか。一患者にすぎない私にとって、この疑問に正確に答えることは不可能です。自分自身の経験しかなく、印象論でしか語れないからです。
標準治療(ステロイドを使った治療)を行なう医師の見解は、皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診察ガイドライン」を読めばすむ話ですので、ここではステロイドを使わない皮膚科医あるいは脱ステ医の見解を参照しながら、ステロイドへの依存とそこから生じるリバウンドについて考えてみたいと思います。
【参照】ステロイド一覧
ステロイド依存症が起きる原因
ステロイド依存症とはなにか。ステロイド否定派の医師の定義に従うと、
ということになります。
なぜこんなことが起きるのか。ステロイドには2つの働きがあるからです。
- 炎症を抑え、皮膚のトラブルを修復する。
- 皮膚にもともと備わっている機能を抑制する。
②が原因で、皮膚が正常に機能しなくなるわけです。
わたし個人としては、しごくロジカルな意見だと感じます。ステロイドの副作用に「副腎の機能抑制」があることは事実です。医学会も製薬会社も認めています。ステロイドを連用すると、身体は自前の副腎皮質ホルモンを産生できなくなる可能性がある。すると、健康な皮膚を自力で維持していくことは困難になる、これは自然なシナリオだと感じます。
ステロイド依存症になりやすいタイプ
ステロイドに依存しやすいのはどういうタイプなのか。ステロイド否定派の医師たちは、もともとの体質によるところが大きい、と考えているようです。
日本の脱ステロイド療法の第一人者として知られる、阪南中央病院(大阪)の佐藤健二・皮膚科部長は、雑誌のインタビューで「依存しやすい人の場合、使えば使うほど早く依存状態に陥る。少量でも依存は起こる。だからうかつに使ってはいけない」と語っています。
依存によって重症化するケースも少なくはないのですが、大抵の皮膚科医はそこをきちんと区別せず、十把一絡げに「重症アトピー」と診断しているといいます。
なお、外用薬の局所的な塗布であっても、ステロイドの影響は全身におよぶそうです。たとえば佐藤医師が担当していた脱ステ患者の顔面にひどい帯状疱疹ができたことがあったそうです。仕方なしに顔にだけステロイドを塗ったところ、全身がきれいになったといいます。
「脳に作用しているという現象も見つかっている。たとえば異常な発汗現象。発汗テストでは汗をかくのに、運動しても汗が出ない。脱ステが終わるとちゃんと汗をかけるようになる」(佐藤医師)
子どものころからずっと汗っかきでした。緊張したり、気恥ずかしい思いをしたりすると、下着がびしょ濡れになるほど汗をかいていました。汗が出はじめると焦ってよけいに緊張して、また汗が出るのです(笑)。毎日1回はこれがあった。ちょっとした悩みでした。アトピー発症後、というかステロイドやプロトピックを使いだしてからというもの、そういうことがぱたりとなくなりました。
運動してもろくに汗が出ない。とくに薬を塗った場所は汗をかかない。おかげで大勢の前で話をするような場面でも汗が噴きだすことがなくなりました。緊張していても平静を装える。こればかりはちょっとありがたい、なんて思っていました。
また、ある乳児のケースでは、脱ステ後に強いかゆみから不眠や食欲減退におちいり、浸出液がとまらず、改善のメドも一向に立たず、生命の危険を感じたこともあるといいます。ステロイドを使っていない患者では、こうした事例はないそうです。
佐藤医師の話を総合すると、ステロイドをやめると症状が急激に悪化する場合、ステロイド依存症である可能性が高いといえそうです。
ステロイド依存症とリバウンド(離脱症状)
おさらいすると、脱ステロイド派の医師たちが考える「ステロイド依存症」とは、
- ステロイドの使用で、皮膚本来のバリア機能、修復システムの働きが低下している。
- この結果、ステロイドなしでは皮膚を正常に維持できなくなっている。
わたしが脱ステを決意したのは、自分がこの状態にハマって抜けだせなくなっている、と直感したからです。だれかに教わったわけではありません。検査で判明したわけでもありません。自分の身体とは四六時中いっしょにいるのです。脳みそがあれば気がつきます。
ただし、当時はステロイド依存とそれによって生じている皮膚炎、さらに脱ステによるリバウンド(離脱症状)のすべてがステロイドのせいだと決めつけていましたが、いまは考えが変わりました。
たしかにステロイド依存症やリバウンドは経験的に存在すると感じますが、脱ステ中の異常で長期にわたる重症化には、もともとのアトピーの症状(体内に溜まった毒素)の関与も大きいのではないかと思うのです。この点は多くの医師たちの見解に(部分的に)同意します。
それまでステロイドで体内に押しとどめてきた毒素が、ステロイドによる制止がなくなったことで一気呵成にあふれだしてきた、ということです。離脱期間中、食生活の改善や食物アレルギーのある食物の除去などに熱心でなかったことは、リバウンドを長引かせる原因になっていたのだろう、と思います。
わたしの仮説にすぎませんが、これを肯定する専門家の意見があります。
医薬品の情報収集や研究と薬害防止を目的に活動するNPO法人医療ビジランスセンター理事長の浜六郎医師によれば、
浜医師によると、ステロイドで皮膚炎が起き、やめたら離脱症状(リバウンド)としての皮膚炎が起きる根拠は3つあるそうです。
1.ステロイドの吸引で、傷ができやすく治りづらくなった
吸入ステロイドを使った比較試験では、吸引ステロイドを使うことで「皮膚に傷ができやすくなり、しかも治りにくい」「まじめに使用した人ほどひどい」という結果が出ているそうです。
皮膚に直接塗らなくても、皮膚炎がひどくなることがわかったといいます。
2.肌が正常でもリバウンドの皮膚炎が起きた
悪性リンパ腫患者に対し、抗がん剤のほか、内服ステロイドを用いたところ、ステロイドをやめた2~3日後から顔に赤みが出て、10日ほど続いたそうです。3回目には脂漏性湿疹を伴う「酒さ様皮膚炎」という、さらにひどい皮膚炎が起きたのです。使えば使うほどひどくなる証拠だと浜医師は言います。
頬を中心に生じる皮膚炎。皮膚が薄くなって、赤みや、にきびのような吹き出物もまじったものです。
3.動物実験でもリバウンドが起きた
健康なミニブタ(人間の肌そっくり)にステロイドを塗りつづけて中断したら、人の離脱性皮膚炎そっくりの皮膚炎が出現したそうです。
ステロイドのリバウンド(離脱症状)過程
全国の医師8名が2014年に発表した研究報告によると、依存症になっている人が外用薬の使用を中止すると、次のようなステロイド離脱症状(リバウンド)に見舞われるとのこと。
すべてが完了するまでの期間には個人差があり、数週間で終わる人もいれば、数年かかるケースもあるそうです。わたしの場合、トータルで3年ほどかかったと記憶しています。
1.炎症が全身に広がる
脱ステ後、炎症(赤み)が全身に広がっていきます。顔から首、上半身、胴全体、足へ順番に拡大していく、というのが典型的な症例だそうです。ステロイドへの依存が軽度なら赤み程度ですみますが、重度の場合は丘疹や膿疱、びらんを伴うこともあるといいます。
わたしは重度だったようですね。ステロイドを一度も塗っていない部位にまで炎症があらわれて、かなり不安になったことを覚えています。
高熱が出ることもあるようです。この場合は感染症や敗血症などの危険があります。
数年前から顔にはステロイドを使わなくなっていたからでしょうか(プロトピックに変えていた)。湿疹が出ても、自然塩でマッサージすることで対処できました。
2.浸出液と落屑
浸出液と落屑が順番にやってきます。最初にリンパ液の滲出があり、そのあと乾燥してかゆみが強くなり、落屑が始まることが多いといいます。この時期はあるゆる刺激に敏感になるそうです。
これは脱ステ経験者たちの多くがくぐり抜けてきた症状です。わたしの脱ステ過程にもありました。毎日、フローリングに降り積もる皮膚片。いくら掃除しても追いつかない。溜めたら棒倒しができそうなほどでした。刺激に敏感になるというのもそのとおりで、脱ステ期は着衣や寝具にもかなり気を遣いました。
こうした体験から、浸出液と落屑はリバウンド特有の症状ではないかと感じます。脱ステから数年後の再発時、湿疹や蕁麻疹、びらん、肌の赤みや変色など症状はかなりひどいものでしたが、浸出液や落屑はありませんでしたから。
この時期がどのくらい続いたかはもう覚えていません。つらすぎる記憶なので、脳が消去したのかもしれません。一般には数日から数か月だそうです。
とにかく肌を見るたび気分が滅入りました。救いになったのは、仕事が好調で忙しかったこと。仕事中は気を逸らせました。だからほとんど躁鬱状態でした(笑)。いやはや、笑い話になってよかった。ほんとに。
3.回復の兆候
汗を異常にかいたり、炎症部位からの出血などがあらわれることがあり、これらは回復の兆候だと考えられています。
完全に離脱が完了すると、肌はきれいになるか、もともとのアトピーの状態に戻ります。わたしの場合は皮膚症状はほとんど消えていましたが、生活習慣全般に気配りするようになっていたからだと思います。
さいごに
日本の医学界は現状、ステロイド依存症やリバウンドの存在を認めてはいません。いまの医学ではそれが正しい、それはわかります。けれどもそれは「事実」や「真実」ではなく、あくまで現時点での「見解」です。
少数派の意見を封じこめるため、多数派はよく「信頼できるエビデンス」とか「科学的に証明されている」といったレトリックを使用します。実際にはそれらは理論や学説にすぎないのです。そして理論や学説は、じつにめまぐるしく変わる。10年後、5年後、いや1年後には反転している可能性もあるのです。
チョコレートや油脂はにきびの天敵とされてきましたが、近年の研究でなんの関係もなかったとわかりました。昔は粉ミルクは母乳より栄養価が高いとされていましたが、いまは逆です。盲腸は不要、切除すべきといわれてきましたが、盲腸にも役割があることが判明しました。かつて瀉血はかつて万病に効くと考えられていましたし、同性愛は病気とされていました。
人体に安全という科学的エビデンスを根拠に認可された医薬品に恐ろしい副作用が見つかった例は少なくありません。ジフテリア予防接種による健康被害、サリドマイドによる胎児障害、キノホルム製剤による神経障害、クロロキンによる網膜症、血液製剤によるHIV感染やC型肝炎ウイルス感染、陣痛促進剤による被害、MMRワクチンによる髄膜炎……。
科学は日進月歩。そしてすべての学問は古今東西、弁証法的に発展を遂げてきたのです。だからいま現在の「科学的見解」には固執も盲信もしない。これがわたしのモットーです。
ともあれ、ことほどさように脱ステのリバウンドの症状は苛烈でシリアスでした。ひとりでやっても医師がいても逃れることはできませんが、精神力に不安があるなら医師に相談するのがいちばんと思います。