ステロイドの副作用
専門書や研究報告などがベースです。難しい専門用語はなるべく日常語に置き換えていますが、実際にこうした副作用が臨床の現場や研究などで確認されているということです。
ランクが高い(炎症抑制作用が強い)ものほど、副作用も強くなります。
全身レベルの副作用
大量あるいは長期のステロイド使用により、副腎の働きが低下したり、機能不全におちいることがあるのはよく知られた話です。このほか、骨粗しょう症や糖尿病を引きおこしたり、子どもの発育障害を引きおこすこともあるそうです。
某県の薬剤師会によると、外用薬の副作用は内服にくらべてリスクはずっと低いとのこと。その根拠として、「最強ランクのステロイド外用薬を1日10グラム使う場合と、1日0.5ミリグラムのステロイド(リンデロン錠)を内服する場合とでは、副腎が受けるダメージは同じである」ということを挙げています。
が――。
これを知って、この薬剤師会の論旨と裏腹に、わたしはちょっと怖くなりました(いまさらですが……)。リンデロンというのは、かなり強い抗炎症作用のある内服薬です。コルチゾール(体内で産生される副腎皮質ホルモン)の25~30倍です。
リンデロン錠の添付文書を読むと、「用法・用量」に0.5~8ミリグラムを1日1~4回投与するとあります。わたしにはステロイドの内服経験がないため、Webでちょっと調べてみると、アトピーの治療の場合、0.5ミリグラムを1日1錠服用するくらいが一般的な用量のようでした。
これと、塗り薬を1日10グラム使用する場合の副作用が同レベルというのです。
思いかえせば、ステロイドの消費量がもっとも多かったとき、アンテベートを1日1本くらい使っていました(最強ランクも使っていたのかもしれませんが、覚えていない……)。アンテベートは最強ランクではありません。が、その次に強いランク。あのころのわたしは「内服までは絶対にするまい」と心に固く誓っていたのですが、内服と大差ない量のステロイドを体内に吸収していたわけです。
アンテベート1日1本というのは短期間でしたし、その後も無事に断薬できたわけですから、いまさらうろたえる必要もないのですが。
ちなみにアンテベートなどの次強(VS)ランクの外用薬の長期投与試験では、3か月の連続使用で副腎機能低下が起こることはあるものの、断薬によって副腎は元に戻ったといいます。
ただし、この試験の対象は成人です。しかも、使用開始直後の使用量は1日5~10グラムで、その後は症状が軽くなって徐々に用量は減らせる、ということが前提です。重症や難治性の場合、使用量がより多くなるケースは少なくありませんし、3か月以上の長期使用となることもざら。密封包帯療法や高齢者、子どものステロイド使用では成人より副作用が生じやすいともいいますから、注意が必要です。
局所的な副作用
ステロイド剤には、こんな作用があります。
- ホルモン作用
- 免疫抑制作用
- 表皮や真皮への作用
- 血管への作用
このため局所的にもさまざまな副作用が起こることがわかっています。
1.毛包炎
ステロイドの副作用でいちばん頻度が高いのがこれ。使用開始直後からあらわれます。細菌への抵抗力低下によるもので、毛包が細菌感染を起こすのです。毛穴を中心に赤く盛りあがった発疹や膿疱ができます。
2.感染症
ステロイドには免疫抑制作用がありますから、カビ(真菌)や細菌、ウイルス、寄生虫などの感染症にかかりやすくなります。あるいは感染症が悪化します。この結果、アトピーの症状が悪化したように見えることも少なくありません。
これを防ぐには、適切なスキンケアや保湿剤が必要。皮膚バリア機能が高まれば、感染症は減らせます。
3.毛細血管が拡張し、肌の赤み、萎縮が起きる
ステロイド外用薬は使いはじめ、毛細血管が収縮するのですが、同じ場所に続けて使っていると、今度は毛細血管が広がってきます。
すると肌に赤みが出たり、皮膚が萎縮したり、薄くなったりします。そこへ外力がかかると、肌に白っぽい縦じまがあらわれます。これは「皮膚萎縮線条」といって、ステロイドをやめても元に戻らないとされています。
4.体毛が増える、濃くなる
男性ホルモン様作用によって、ステロイドを塗った部分の体毛が濃くなる、増える、ということが起こります。これは子どもに多いようです。
5.色素が抜ける
ステロイドを塗布した部分が色素抜けを起こして白くなります。わたしもこれにはちょっと閉口しましたね。肘の内側や腋の下などに小さな色抜けがいくつかあって、夏場に日焼けしてもそこだけなぜか白いまま。いまは日焼けできるようになりましたが、それでもうっすらと痕が残っています。
6.赤ら顔、ほてり(酒さ様皮膚炎)
顔にステロイドを塗りつづけると、「酒さ」のような症状(赤ら顔、ほてり)が生じます。膿疱や白にきび、鱗屑などが生じることもあります。
こうした症状は、主に中年女性に多く、治すには脱ステロイドしか方法がないのですが、断薬の数日後にはステロイドの離脱症状としての離脱性皮膚炎が起こることが少なくないようです。赤ら顔がひどくなったり、顔が腫れあがったり、灼熱感が出たりします。
7.にきび
ステロイドには男性ホルモン様の働きがあります。連用によって細菌への抵抗力も低下します。これらに起因する白にきびも、ステロイドの副作用のひとつ。顔や胸、背中に同じような形状の白にきびが発生します。
脂腺が発達する思春期以降によく見られる副作用ですので、子どもには起こらないそうです。
8.白内障、緑内障
目の周りにステロイドを使うと、白内障や緑内障を引きおこすこともあります。
9.接触性皮膚炎
ステロイド外用薬の各種成分(配合剤や基剤、添加物など)によるアレルギーで、皮膚炎が増幅することがあります。
副作用を回避するための、ステロイドの使用基準
医療機関では一般に、次のようなルールに従って、ステロイドを処方しています。
ステロイド一覧(効き目の強さで分類)はこちら。
全身レベルでの副作用を回避するための使用基準
子どもの場合
- 最強(SG)ランクは、1日5グラム以上で副腎機能低下の恐れあり。安全な使用量は1日2グラム以下。
- 次強(VS)ランクは、1日10グラム以上で副腎機能低下の恐れあり。安全な使用量は1日5グラム以下。
- 強(S)ランク以下は、1日15グラム以上で副腎機能低下の恐れあり。安全な使用量は1日7グラム以下。
大人の場合
- 最強(SG)ランクは、1日10グラム以上で副腎機能低下の恐れあり。安全な使用量は1日5グラム以下。
- 次強(VS)ランクは、1日20グラム以上で副腎機能低下の恐れあり。安全な使用量は1日10グラム以下。
- 強(S)ランク以下は、1日40グラム以上で副腎機能低下の恐れあり。安全な使用量は1日20グラム以下。
局所的な副作用を回避するための使用基準
連用で局所的に副作用が発生する予想期間
- 最強(SG)ランクのステロイド外用薬で、4週間以上
- 次強(VS)ランクのステロイド外用薬で、6週間以上
- 強(S)ランク以下のステロイド外用薬で、8週間以上
連用する場合、安全に使える期間の目安
全ランクにおいて、
- 顔、首、股間、陰部への使用は2週間以内
とすることで、安全に使用できるとされています。
このほかの部位への使用は、
- 最強(SG)ランクは、2週間以内
- 次強(VS)ランクは、3週間以内
- 強(S)ランク以下は、4週間以内
さいごに
ステロイド使用中はもちろん脱ステのリバウンドを乗り越えたあとも、ステロイドによって受けたダメージがいかほどのものか知るのが恐ろしくて、ステロイドやプロトピックの副作用についてきちんと調べる勇気がありませんでした。
ようやくこのほど、向きあうことができました。アトピーが治ってから5年のあいだ、再発することもなく、薬の副作用の影響下から完全に脱したという確信が持てるようになったからです。
この記事は、専門家の報告や専門書などを参照しながらまとめました。われわれ患者側の印象論とのあいだにはある種の乖離もあるかと思いますが、医学界や医薬品業界から見た、ステロイド外用薬の全体像というものがつかめたはずです。わたしの主観、経験則などは除外しています(少しばかりの感想は入れていますが)。
記事を書きながら、脱ステの必要性はともかくとして、「ステロイドは怖い薬ではない」という医師の言い分はひょっとすると正しいのかもしれないぞ、という気になりました。
わたしの場合、中ランクのキンダベートやロコイドから、強ランクのフルコートやリンデロンVを経て、次強ランクのアンテベートへ到達するのに1年もかかりませんでした。むろんその間、毎日のようにステロイドを塗りつづけていました。次強ランクの安全基準の「大人1日10g以下、連用3週間以内」どころか、強ランクや中ランクの「大人1日20g以下、連用4週間以内」でさえも守ることはできませんでした。はるかにオーバーしていたのです。
わたしがお世話になった医師たちは、「ステロイドでぱっと抑えて、あとは保湿しなさい」と口をそろえていました。が、ほとんどの患者(※)が経験するように、薬で一時的に症状が軽快しても、やめるとすぐまたぶり返します。しかも以前よりひどくなる。保湿剤など無用の長物ですね。
医師がそのことに気づかないはずがありません。安全な投与量をはるかに超える処方箋を書いていたのです。処方箋に記すステロイド外用薬のランクもどんどんあがっていったのです。
ステロイドはほんとうに怖い薬ではないのかもしれない。ただし、「用法、用量を守っていれば」という条件つきです。そしてほとんどの臨床の現場では、医師も患者も用法、用量を遵守していない、というのが実情ではないでしょうか。
※「ほとんどの患者」と書きましたが、ある脱ステ医によると、ステロイドを使っている患者の9割は症状がコントロールできているとか。わたしのように塗っても塗っても悪化していき、症状がまったくコントロールできない(ステロイド依存の)患者は1割ほどだといわれました。でもこれは臨床医の経験則。1割という数字の正確さには疑問が残ります。薬が効かなくなったら、通院をやめる患者が多いはずですからね。ちなみに「ステロイド依存症」という副作用の存在を皮膚科医は現在のところ認めてはいません。
沖縄県薬剤師会
バイエル薬品
日本アレルギー協会「アトピー性皮膚炎のおもな治療薬」
皮膚科学会「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2016」
福岡県薬剤師会
独立行政法人医薬品医療機器総合機構「リンデロン錠0.5mg/リンデロン散0.1%/リンデロンシロップ0.01%」添付文章
Topical Steroid-Damaged Skin. Anil Abraham and Gillian Roga
Misuse of topical corticosteroids: A clinical study of adverse effects. Vivek Kumar Dey