ひとり手持ち無沙汰でぼんやりしているのがいい、といったのは兼好翁(吉田兼好)ですが、わたしにはその心境がまるでわからない。時間をもてあますとそわそわして落ち着かない。で、買い物したり旅行の計画を練ったり。
ぬか漬けを始めたのも、単なる暇つぶしでした。
ところがいまはどうか。わが家ではこのところ、食事どきになるとぽんぽんと小気味よい音が鳴りわたるのです。自家製ぬか漬けのうまさに思わず打つ、舌鼓の音(笑)。ぬか床はくさいからやめてくれー、といっていた妻も、うれしそうにぽりぽりやっています。
手塩にかけて育てているぬか床がもうかわいくってしょうがない。
果菜に山菜、葉野菜、根菜、どんな野菜もぬか床へ入れるだけで、味わいふくよかな漬け物に早変わり。四季折々の旬の野菜、その本来の滋味を思うぞんぶん堪能できるうえ、毎日食べているだけで毎朝快調。朝食抜きの少食生活でも毎日、強烈に朝からもよおします。
もりもり出ます。
最近、乳酸菌サプリの登場回数がめっきり減っているのも、ぬか床のおかげ。それどころか風邪ひとつひかない。なにせ、成熟したぬか床には1グラムに10億もの乳酸菌がいるそうですから。
ぬか漬けに棲んでいるのは、植物性乳酸菌。天然のプロバイオティクス。ヨーグルトやチーズにいる動物性乳酸菌よりたくましく、生きたまま腸に達して繁殖。おなかを強力に浄化してくれるのです。アトピーやアレルギーの方に強くおすすめしたい。カンジダ治療にも役立ってくれます。
東洋のヨーグルト、と異名をとるぬか漬け、その始め方をご紹介。
1.ぬか床づくりに必要なもの
面倒くさそう、と二の足を踏む方は少なくありませんね。でも、やってみると拍子抜けします。というか、単純に楽しい。
最初に必要なのは、この2つ。
- ぬか床を入れる容器(タッパーでOK)
- ぬか床の材料(ぬか、塩、水、昆布、唐辛子)
1.ぬか床を入れる容器
サイズは、4人家族以上なら6リットルがおすすめ。家族2人までなら3リットルでもいけます。が、容器が小さいと野菜を漬けにくいし、かきまぜにくいです。
2.ぬか床の材料
糠(ぬか)というのは、お米の胚芽部分。精米時に玄米から削ぎ落とす部分です。生のぬかを使ってもいいのですが、熟成にものすごく時間がかかると聞いて、わたしは発酵ずみのぬかを入手しました。
ちなみに生ぬかで始める場合は、ぬかと水、塩を10対10対1くらいの割合で入れて混ぜあわせ、よく練ったら、最後に昆布を細かく刻んだものと唐辛子を入れます。そのあと「捨て漬け」という作業をおこないます。クズ野菜を漬けて乳酸菌を繁殖させ、ぬか床を熟成させる時間が必要なのです。
2.ぬか床の作り方
熟成ぬかを使った、ぬか床の作り方を解説していきます。
といっても、水1kgと混ぜあわせたら、もうできあがり。捨て漬け(熟成)期間が不要で、明日からでもぬか漬けが食べられます。
じつは、干し椎茸や煮干し、かつお節、からし粉など、その家庭のぬか床の味を決める材料はほかにもいろいろあるのですが、当面はこれで大丈夫。ヨーグルトやビール酵母を入れる人もいます。こっちは乳酸菌に活を入れて、熟成を早めるのが狙いですね。
わたしは家にあったラブレ菌のサプリメントを大量投入しました。生きた菌、それも植物性乳酸菌ですから、高確率でぬか床に定着してくれるはず。
十分にこねくり回したら、容器へ移します。さーて、さっそく野菜を漬けてみましょうか。
3.野菜の漬け方
基本的に、新鮮な野菜ならなんでも漬けられます。ぬか漬けに不向きなのはトマトとかタマネギとかネギあたりでしょうか。
最初はオーソドックスなキュウリでも、と思ったのですが、最近キュウリ相場が高騰しているため冷蔵庫にありません。だから今日は大根と人参、小松菜を漬けます。
ハイ、できあがり。簡単ですね。
最初の2~3回は塩分がきついので、早めにぬか床からとりだすとベターです。
キュウリや大根、人参なんかは洗って切ってそのまま漬けられます。茄子や葉野菜は塩もみしてから漬けます。塩もみというのは、塩をまぶして3~5分置き、そのあとぎゅっと絞って水分を抜くことです。水気とともに、野菜のアクやえぐみも抜けます。
下ゆでが必要な野菜もたまにあります。蓮根やジャガイモ、カリフラワー、ゴボウなどです。芯に硬さが残るくらいのゆで加減が◎です。
3.食べ方
ぬか床から野菜を引きあげる際は、ぬかをよく落とします。葉野菜は絞って水分をぬか床へ戻します。野菜から出る汁には栄養がぎゅっと詰まっていますので。ぬか床が水分でゆるくなったら、ぬかを足せばOK。
引きあげたら、さっと水洗い。注意すべきなのは、あまりごしごしやらないということ。ぬか漬けに染みこんだ乳酸菌が全部、流れてしまいます。もったいない。
食べやすい大きさに切ったら、いただきましょう。ぬか漬けは、ぬか床からとりだしてすぐが一番うまい。
4.ぬか床の手入れ方法
1日1回かきまぜます。
ぬか床の内部ではさまざまな微生物が共存共栄しています。そのなかには酸素が好きなのもいれば嫌いなのもいる。菌がバランスのいい状態を保つことで、雑菌を駆逐し、おいしい漬け物をつくりだしてくれるわけです。このバランスが崩れると、ぬか床が異臭を放ったり、雑菌が繁殖したり、カビが生えるといった最悪の事態をまねくこともあります。
だから、毎日かきまぜて、ぬか床に空気を送りこんでやるのです。
毎日漬けるというのも大事。野菜は乳酸菌の栄養源。栄養を供給してやることで、ぬか床の微生物が元気でいてくれます。
数日漬けないというなら、冷蔵庫に入れておけば問題ありません。低温だと、微生物の活動はゆるやかになります。長期間留守にするなら冷凍庫に入れましょう。完全に活動をやめます。次に漬けるときは、常温に戻してやればOK。
どうです。
思ったより簡単ですよね。
最後に
ぬか漬けは日本人のソウルフード。欧州のヨーグルトやチーズ、韓国のキムチ、ドイツのザワークラウトとならぶ、わが国が世界に誇る発酵食品。とてもシンプルな食べ物です。
でも、シンプルだからこそ、力強い。食べていると、知らないうちに世塵でこわばった肩がほぐれていくようです。
なーんていうと大袈裟ですが、ぬか床をかきまぜている瞬間、なんだか呼吸が楽になるような気がします。
兼好翁はなにもせずぼうっとしていたい、とかいっていましたが、暇にあかせてぼんやりしていたら、このぬか漬けの滋味は知らないままだった。孔子は、人間なにもしないでいるよりは、博打でもいいからなにかしたほうがいい、といっていました。
わたしは孔子派。