保湿は必要?
律儀に病院通いをしていたころ、
- 「アトピーは肌のバリア機能が壊れている」
- 「肌のバリア機能を回復させないとダメ」
- 「お風呂あがりにかならず保湿しなさい」
と、どの医師にもいわれました。
ふむ、と黙って従っていましたが、当時のわたしは「肌のバリア機能」がなんなのか、そもそもわかっていなかった。そういう方のためにまずは簡単な解説から。
皮膚のいちばん外側にある角質層のこと。角質には水分保持機能があり、体内の水分の蒸発を防ぎ、同時に外からの異物侵入を阻止しています。
砂漠の熱風にさらされても人間の身体が砂の城のようにばらばらに崩れ落ちず、ひとつにまとまっているのは、角質層の働きによるのです。
ところがアトピーの肌は砂漠に行かなくても乾燥します。
ひどいときは1日中、まるで砂のように皮膚がぼろぼろはがれ落ち、足元にフレア(落屑)の山をつくります。さすがに身体がバラバラになることはないけれどが、この状況はどう考えても異常。通常1か月といわれる皮膚のターンオーバーが1日や半日で起きているのです。完全におかしいです。
しかしなぜ、こんなことになるのか?
汗腺から毒素がどんどん排泄されているからです。身体がみずからバリア機能を破壊しているといっていい。それと同時に、身体は角質を保持、再生しようともがいています。異物侵入や水分蒸発は命を危険にさらす。だから避けなければならないのです。
わたしはかゆいときは遠慮せずにかくようにしていました。医師に「かくと患部が広がるし、細菌感染を起こす」といわれてもかいていました。そのほうがデトックス(毒素の排出)が進むと考えていたからです。いまでも間違っていなかったと思います。
半面、いま思うと間違っていたところもあります。炎症がなく、ただ乾いているという部分は、きちんと保湿(少なくとも入浴後はかならず)をするべきだったのです。わたしはわりと適当でしたが、しっかりやればかゆみがだいぶマシだったに違いない。
というのは、あの乾燥肌は、角質の水分保持機能が一度、完全に崩壊したがために身体が自力で再生することができず起きていたからです。
なにしろ角質層の厚みはわずか0.02ミリ。いったん損なわれると、水分が適切に保てなくなり、外界から常時さまざまな刺激(紫外線、エアコンの風、大気中のカビ、細菌、排気ガス、ハウスダストほか)にさらされ、ダメージを受けつづけることになります。これでは修復のヒマがありません。
というわけで、この記事のテーマは、
ということになります。
むろん、これはあくまでわたしの見解。全身を保湿したいならすればよし。昔のわたしのように保湿は不要と考えているならそれもよし。所詮、どんなスキンケアも対症療法です。どっちを選択しても治癒が早まることも遅れることもないのです。
保湿の効果
角質層を保護することで、次のような効果が期待できます。
- 慢性の乾燥肌の解消
- 慢性的なかゆみの解消
- 湿疹の抑制(アレルゲンのブロック)
保湿の方法
それでは具体的なやり方について解説していきます。
保湿のタイミング
入浴後(シャワー後)3分以内に乾燥部位全体を手早く保湿します。入浴やシャワーで皮膚に浸透した水をとじこめるためです。角質の水分はあっという間に蒸発しますから、すぐ保湿して蓋をしないと、かえって肌を乾燥させるリバウンド効果を引きおこします。
日中や夜間も、肌の乾燥が気になるときは行ないます。定期的に潤いを与えることで、外部からの異物の侵入を避けることができます。
ちなみにエプソムソルトや竹酢液、木酢液を使って長時間の半身浴を行なったあとは、いつもよりお風呂あがりの肌がしっとりするのを感じました。汗とともに皮脂が分泌されて、皮膚表面に膜を張っていたのではないかと思います。
保湿剤の選び方
市販の保湿剤(最近はモイスチャライザーと呼ぶらしいですね)は、芳香剤や着色料を含まない低刺激のものを使います。刺激の強いものを使うと、症状が悪化したり、フレアが増えたりすることもある。
アトピーを発症したばかりのころ、薬局で保湿剤を手当たり次第に買いました。でも多くは役に立たないか、使うとむしろ悪化する感じがしました。わたしが保湿に不熱心となったのはそのため。保湿剤は自分に合うものをしっかり見極める必要があると感じます。
保湿剤は、油分と水分の量によって、次の3つに分類されます。
- 軟膏
- クリーム
- ローション
この違いを理解しておけば、適切な水分補給と症状の抑制が可能になります。
1.軟膏
軟膏は、アトピーの方の第一選択肢とされています。オイルの含有量がもっとも多く、水分を閉じこめる働きもいちばん強いからです。が、べとつく。それがいやなら、クリームを選ぶといいでしょう。
2.クリーム
軟膏の次にオイルの含有量が多いのがクリーム。べとつきが少なく、それでいて水分をしっかり保持してくれます。クリームには安定剤や防腐剤が含まれていることがあり、そういうものは肌を刺激します。避けましょう。
3.ローション
ローションの主成分は水です。油分が少ないため、すぐ蒸発してしまいます。保湿用途には向きません。防腐剤を含んでいることがあり、傷やびらんなどにつけるとヒリヒリしたり、まっ赤に腫れあがることがあります。
ほんとうに役に立つ保湿剤を見つけるのは難しいものです。食べ物と同じで、ほかの人に効果があっても自分には合わないこともあるからです。
肌の状態によってもマッチするものは変わります。軽症のころは乾燥対策に役立ったものが、悪化したら使いものにならなくなった(かゆみを誘発するなど)というようなこともありました。
使用前のパッチテスト
新しい保湿剤を使用する前には、以下のことに気をつける必要があります。
- アレルギーのある成分を避ける
- パッチテスト
アレルギーがある成分がわかっている場合、当然それは避けます。パッチテストはかならず行ないます。
手首か肘の内側に少量(豆粒くらいの範囲)を塗布して、24~48時間洗い流さずに様子を見ます。赤くなるとか湿疹やかゆみがあらわれたら使用しない。
おすすめの保湿剤
皮膚科ではワセリンやプロペト、ヒルドイドなどがよく処方されますが、わたしには合いませんでした。べたべたしますし、かゆみや炎症が肌の内側にこもるような感じがしたからです。かぶれたこともあります。あとで知ったのですが、どちらも石油からつくられる油。かぶれたり、油焼けを起こして色素沈着が起きやすくなることが少なくないようです。
わたしが使ってよかったのは、この4つ。
- オリーブオイル、ココナッツオイル
- ひまし油
- 自然療法の外用手当て
- スキンケアクリーム
1.オリーブオイル、ココナッツオイル
保湿にココナッツオイルやオリーブオイルを用いて、患部を時間をかけて丁寧にマッサージします。ごわついた肌がやわらかくほぐれていきます。湿疹やかゆみがやわらぎます。ありがたかったのは、落屑が減ったこと。オイルの力で、角質細胞の治癒が促進するのかもしれません。
全身をマッサージするのもいいし、患部だけを局所的にマッサージしてもOK。とくに向いているのは冬場。皮膚の乾燥がぐっと抑えられます。
頭にも使いました。ただし、塗ったままでの外出は絶対に避けるべき。そのまま外出すると、テカテカしてなんだかみっともない。イタリア人かバリ人のようなにおいを放ちます。
身体についたオイルは洗いながさなくても支障ありませんが、頭はダメです。シャンプーや石けんで落としきれないようなら、大さじ1杯ほどの重曹をお湯に溶かしてすすげば、すんなり落ちます。
なお、わたしはココナッツオイルを中心に使いました。抗菌、抗真菌作用が強いので、細菌感染を防いだり、カビを殺したりできるからです。
洗ってもオイル残りが気になるようなら、洗濯時も重曹が便利。洗濯機に1カップの重曹を放りこむだけで、油落ちがぐっとよくなります。重曹は水に溶けにくいので、ぬるま湯を使うとベター。わたしはヤカンで熱湯を沸かし、水を張った洗濯機にそそぎました。
ついでながら、オイルの代わりにヨーグルトを肌につける、というケアのしかたもあります。
ある日なにげなしに塗ってみたら、肌の調子がよくなって驚いたのです。ネットにはあのころ、ヨーグルトを保湿剤として使う記事なんて当ブログのほかにはひとつもなかったのですが、最近はよく見かけるようになりましたね。
2.ひまし油による患部のマッサージ
ひまし油にはさまざまな働きがあります。肌に対する作用としては、次のようなものが代表的。
- 抗炎症作用
- 抗菌、抗真菌作用(感染対策)
- 強力な保湿作用
- 傷痕や色素沈着を消す
- 血行促進
ひまし油ってなに? という方は、こちらを先にお読みください。
アトピーの場合、重症患部に局所的に使用するとベターです。粘り気が強いオイルですから、摩擦で肌を痛めないよう注意。ゆっくりとやさしく患部をマッサージ。そのまま数時間かひと晩、ほうっておきます。全身のマッサージには適しません。頭皮にも使えますが、やはり部分的に使用すべき。油分を洗いおとすのが大変です。
3.伝統的な自然療法による外用手当て
自然療法による、昔ながらの外用手当ては、肌本来の自然治癒力をひきだす手助けをしてくれます。どくだみやしょうが、いろんな野菜、お米のとぎ汁などを使った、やさしい方法です。たくさんありますので、別の記事でまとめて紹介します。
4.スキンケアクリーム
シャンプーや化粧品、ハンドクリーム、洗濯用洗剤などにもいえることですが、スキンケアクリームには肌を刺激する化学物質が配合されていることがあります。そのなかには人体に有害なものも多く、角質層が壊れていると皮膚や粘膜から体内に取り込まれ、アレルギーや炎症を引きおこすリスクがあります。その代表が合成界面活性剤です。
口から入るのは怖いけれど、肌からなら大丈夫だろうと考える人が多いのですが、間違いです。口から入った有害物質は肝臓が解毒します。毒性が軽減されます。が、肌から吸収されたものは肝臓を経由しません。血流に乗って全身を旅します。しかも一度吸収された毒はなかなか排出されない。組織や内臓に停滞するのです。
スキンケア用品を使う場合、安全なものをよく吟味してください。
脱ステには脱保湿が必要
保湿剤を使いつづけていると、保湿に依存する、と指摘する専門家がいます。ステロイド軟膏やクリームにも油脂が含まれているから、ステロイドだけでもやはり保湿依存が生じるそうです。こうした方が脱ステをおこなう場合は、脱保湿も同時に行なったほうがうまくいくとか。
くわしくはこちらの記事にまとめています。
さいごに
脱保湿の必要性を説く方もいます。わたしも半分、賛成。まめまめしく保湿などしているから、肌が甘えてしまって、本来の保湿力が退化するのだろうと(笑)。
でも皮膚のターンオーバーが狂っているときは、数週間くらいは保湿をきちんと行なって、皮膚バリア(角質層)を健全な状態に引きあげてやる、ということも有効と思います。
わたしは冬場、加湿器を使いましたが、これもおすすめ。冬の乾いた空気は肌の乾燥に拍車をかけます。ただし加湿器はスチーム式を。超音波式や気化式は雑菌やカビが繁殖しますので、アレルギーの原因になる可能性がありますからね。
National Eczema Association
A review on the role of moisturizers for atopic dermatitis. Yoke Chin Giam,corresponding author Adelaide Ann Hebert, Maria Victoria Dizon, Hugo Van Bever, Marysia Tiongco-Recto, Kyu-Han Kim, Hardyanto Soebono, Zakiudin Munasir, Inne Arline Diana, and David Chi Kang Luk
Moisturizers for patients with atopic dermatitis. Varothai S, Nitayavardhana S, Kulthanan K.
日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン
WebMD