鬱(うつ)、ネガティブ思考、マイナス思考
どんな病気もそうですが、長患いをしていると心が曇りがちになって、ものごとを悲観的にとらえるようになります。長引くと精神状態はますます悪くなり、やがてはそれが日常化してしまいます。
アトピーが原因で自信をなくしたり、怒りっぽくなったり、ネガティブになったりする方も少なくないようです。なかには、それが高じて鬱(うつ)になるケースも。
そうして、もう死にたい、自分なんか死んだほうがいいのでは、という脅迫めいた考えがある日ふと心に芽生え、深く根をおろしていき、悲しいことに最後はみずから命を絶ってしまう。そういう人をひとり、わたしは知っています。
そこまでいかずとも、昔から「病は気から」といわれるように、心が元気でないと治るものも治らない。精神的なストレスが肉体の抵抗力や免疫力をさげることは科学的に立証されています。
ポジティブ(プラス思考)やネガティブ(マイナス思考)といった心の状態は、心の癖のようなものです。人生の幸せの度合いは、その人の心の持ち方ひとつで決まります。ありがたいことに、脳の神経回路というものは、訓練すればだれだってポジティブなものへつくりかえることができます。最新の生理学や脳科学でもそういう研究が進んでいます。
そのやり方――メンタルケアの方法をご紹介。偉大な先人や先輩たちから教わった人生訓や、ポジティブに生きるための方程式です。音楽でも聴きながら、気楽な気持ちで読んでください。
自己メンタルケアの方法
1.あるがままを受け入れる
「もしこうだったら、わたしの人生はもっとよくなるのになあ」「なにかもっと別のことをやれば(やっていたら)、成功できる(していた)のになあ」「これさえ持っていれば、自分の価値があがるのになあ」――こんな思考にはなんの意味もありません。
意味がないどころか、じつは有害でさえあります。こういうことを考えつづけていると、ネガティブな脳はどんどん強化されていきます。
そうでなく、「わたしは日々進歩していて、いまも自分のベストを尽くしている」と考えるのがなにより大切。
2.不平不満を絶対に口にしない
物事に対して不平や不満をいう癖は、状況をますます悪化させるだけです。自分をみじめにしているだけなのです。家族にあたってもなにも解決しません。
3.人とくらべない
自分とほかの人を比較したところで、生まれてくるのは、本当は必要のない不満や、まちがった優越感だけ。こうした優越感や劣等感は捨てるのが正解。
「自分は他人より優れている」「自分は他人より劣っている」――こうした考えのいっさいはいますぐ心から追っぱらいましょう。
4.怒りの感情を捨てる
「自分だけこんな嫌な思いをするのは不公平だ」「どうして自分の人生は思いどおりにならないのか」「嫌なことがあれば腹を立ててあたりまえだ」――こういう不健全な怒りは、自分を思考停止におちいらせます。自分をコントロールするさまたげとなるのです。
健全な怒りは、人世を変える手助けとなることもあります。けれど、不健全な怒りは捨てるが勝ち。人生、かならずしも思いどおりにはならないことを肝に銘じましょう。
5.現実を直視する
いくら努力しようとも、人生は不確かなもの。懸命に生きていたって、ときには苦痛や困難に直面したり、なにかを失うこともあるのです。
でも、じつは人生は公平なものなのです。不公平だと感じることがあっても、そうでない。だれもがさまざまな艱難辛苦と向き合いながら暮らしている。
ちがいがあるとすれば、不幸なできごとからなにかをつかみとる人とそうでない人がいることだけ。
6.すべて自分の責任だと認める
人生が暗礁に乗りあげたときや、とてつもないトラブルに見舞われたとき、人はそれを運命や他人などのせいにしようとします。この苦しみの原因はわたしでなく、ほかのなにかにある、と考えるわけです(アトピーになったのは、親のせいだとか)。
しかし、これはおおまちがい。
自分に襲いかかるほぼすべての問題は、過去に自分がしたことや、なにもしなかったことが原因なのです。
このことを認めれば、どんな状況もいい方向へ転がりはじめます。大事なのは、「こうならないためには、いつなにをしておけばよかったのか」と考えをめぐらせること。これを繰り返すことで、脳は自然とポジティブで建設的な思考をするようになっていきます。
7.暗い心は自分がつくっていると知る
たいていの人は、自分の感情の浮き沈みを自然発生的なものだととらえています。でも実際、脳はそういうしくみではありません。
感情はいつも、自分の内側から生まれてくるのです。その感情をつくりだすのは自分なのです。マイナスの思考もプラスの思考もすべて、つくっているのは自分。自分の心の状態はつねに自分に責任があるのだと心得ましょう。
8.健全な自尊心をはぐくむ
現代社会において自尊心が不足している人は少なくありませんが、これは本人の問題ではなく、過去にほかの人から受けた言動が影響しています。
自分のいいところをみつけだし、みずから評価し、さらには目標に向かって行動を起こし、それをまた評価してやることで、自尊心は高まっていきます。
9.自分の考えを全部受け入れる
他人をねたんだり、意地の悪いことを思ったり、ひねくれた考えが頭に浮かぶことは誰にでもあるもの。それに対し、罪悪感を抱く必要などありません。自分を否定する必要もありません。
そこにあるものをなきものにしようとしても、消えてはくれないからです。
やるべきなのは、その考えは自分のものと認め、受け入れること。そのうえでよりよい自分をめざせばいいのです。
10.自分の考えを大切に
他人に気に入られたいからと、相手が喜びそうなことを口にするのは固くつつしむべきです。こんなことをつづけていると、自分の理想や信念が消えてなくなってしまいます。
理想や信念は、自分にとってなによりも大事なのだと知ってください。
11.自分を頼る
自分でできることを人任せにしていると、やがては他人に頼ることに慣れてしまいます。依頼心や依存心のとりこになってしまいます。そうして、相手が自分の頼みを聞いてくれなかったり、自分の思いどおりにならなかったり、自分の役に立たなかったりすると、不満が芽生えたり、相手を軽蔑したり腹を立てたりしはじめるのです。
ネガティブ脳の完成です。
しかも、自分が期待していることのすべてをかなえてくれる相手はまずいない。ずっと低いレベルで手を打つハメになります。
やめましょう。
自分を信頼するのです。自分に頼る割合が大きくなるほど、他人への期待値は低くなり、ひいては他人を受け入れる心の余裕が生まれてくるのです。
12.他人を大切にする
他人を軽んじないこと。バカにしないこと。わざと人を傷つけないこと。自分より弱い人を攻撃しないこと。
どんな人も、自分と同じで痛みを感じるひとりの人間だと忘れないこと。
13.人を憎まない
悪い感情によって、悪い影響を受けるのはほかでもない自分です。他人に向けるすさまじい負のエネルギーは、自分自身の心と肉体に大きな害をおよぼします。
もっと悪いできごとを引き寄せてしまうこともある。
眠れない夜などは他人のことをいろいろと考えてしまいがちですが、やめましょう。
他人を批判しないのも大切です。つづけていると、しまいには批判する相手が周囲にいなくなって、批判の矛先が自分に向くようになります。
14.嫌なことをいう人を相手にしない
相手を不愉快にしてやろうとして、わざわざ相手の嫌がることを口にする人がいます。理由もなく、説教くさいことをいいたがる人もいます。
こういう人は、他人を見おろして優越感を感じることで、不足している自尊心の空白を埋めようとしているのです。そういう不幸な性分なのです。
うまくいいかえしてやろうなどと考えるのはバカげています。腹を立てる相手ではなく、同情すべき人物なのです。なにもいわず微笑むか、さらりと受け流しておくのが正解。距離を置くのもいい。
15.耳の痛い話にも耳を傾ける
他人が、自分のことを真剣に考えて建設的な気持ちで批判してくれているのなら、静かに耳を傾けるべきです。
自分を再発見するための絶好の機会となるかもしれません。
身構えず、反論せず、感情的にならない。最後は感謝し、お礼をいえるようになれば完璧。
16.他人の反応を気にしない
相手を怒らせようとしたり、不愉快な思いをさせてやろうというのでないかぎり、自分の言動によって相手がどんな感情を抱こうとも気にかける必要はありません。
それは、そのときたまたま相手の機嫌が悪かった身体ったり、それがその人の心の癖だったり、自尊心の欠乏が原因だったりするからです。
17.心の持ち方を変える
意識は生活を規定する、とはマルクスの言葉です。その言葉どおり、思考の質は人生の質に直截的な影響をおよぼします。
人間の脳には、決まったフォームで働く性質がありますから、消極的あるいは悲観的な思考を繰り返していると、脳にそのような回路ができあがってしまい、それ以降もその回路を使ってものごとを考えようとします。
ネガティブさ、というものはつまるところ、自分自身が脳をそうプログラムした結果だったのです。
ご安心を。
脳は、プログラミングしなおせます。
そのために効果的なのは、たとえば今晩寝るまえに、
- 「きょう1日のよかったこと」を3つ書きだす。
- 「きょう感謝したいこと」を5つ書きだす。
といったようなことをしてみる。これをあすからもつづける。
前向きに考える癖をつければ、回路そのものを刷新することができます。ポジティブな心というのは、簡単に自分でつくりあげることができるのです。
18.いまが幸せと気づく
「こういう状況になったら、自分は幸せになれるだろう」「あれが手に入ればきっと幸せだ」「あれを成し遂げたら、自分は幸せになれる」――人間だれしもこうした考えを抱くことがありますが、事実は正反対です。
ハーバード大の人気講師で作家のショーン・エイカー氏がおこなった、30万人近い被験者を対象にした実験で、健康、仕事、家庭、友人関係、地域社会、創造性などほぼすべての面で、「幸福感が成功をみちびく」ことが立証されました。
目標や夢を実現するのは、その人が幸せでポジティブな心理状態にあるときだということです。
目標が達成できたとしたら、それはもちろん幸せなこと。でも、そこへ向かって日々前進しているいまもまた幸せなのだ、と気づきましょう。
さいごに
「健全な肉体に健全な精神がやどる」とよくいいます。「不健康な肉体に不健全な精神がやどる」というのは聞いたことがありませんが、病魔に身体がむしばまれていると、多かれ少なかれだれだって精神に変調をきたすもの。
ここに書いたメンタルケアの方法が、そんな方々の一助となればこんなにうれしいことはありません。
『EQ-こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン著、講談社、『スタンフォードの自分を変える教室』ケリー・マクゴニガル著、大和書房、『オプティミストはなぜ成功するか』マーティン・セリグマン著、パンローリング、『うまくいっている人の考え方』ジェリー・ミンチントン著、ディスカバー携書、『人を動かす』デール・カーネギー著、創元社、『道をひらく』松下幸之助著、PHP研究所、『やりたいことをやれ』本田宗一郎著、PHP研究所、『積極的な考え方の力』ノーマン・ピール著、ダイヤモンド社、『ジグ・ジグラーのポジティブ思考』ジグ・ジグラー著、ダイヤモンド社、『幸福優位7つの法則』ショーン・エイカー著、徳間書店、『世界でひとつだけの幸せ』マーティン・セリグマン著、アスペクト