脱ステロイド、脱保湿への不安
アトピーを治す、ということの困難は、しかし現実にはその8割を「これでほんとにいいのか」という不安との戦いに負っている気がします。もちろんその時々の症状の大きさによってこの数字に多少の変動があるにしろ、です。
実際にとりかかってしまえば、やること自体はすぐルーチン化しますから、さほど困難ではありません。そのために必要な食事の工夫などは、ある種の楽しみともいえるものでした。
脱ステも基本的には同じ。むろん肉体的な苦痛が大きいのは言うまでもありませんが、気持ちがしっかりしていれば乗り越えられる、精神状態が安定していればなんとかなる、わたしは経験からそう考えます。
さてこのごろ、掲示板やメールなどを整理していて気づいたことがあります。
当ブログの読者の方では、脱ステを宣言し、その後、便りがなくなるというケースが少なくないということです。続報があっても「ステロイドを使ってしまいました」というものばかり。「いったん治して、今度は頑張ります」とあっても、そのあとやっぱり音信が途絶えてしまう。
うーむ、やはり自力での脱ステは難しいのだな、と感じ入ったわけです。
失敗の原因が、離脱症状の激しさなのか、「これでほんとにいいのか」という不安のせいなのかはわかりませんが、この記事では「不安」を取り除く情報の提供を試みるつもりです。
こうした場合、わたしの体験談のような一個人の情報は役に立たないでしょう。
国内屈指のアトピー専門医として名を馳せる佐藤健二医師(阪南中央病院皮膚科部長)の著書『患者に学んだ成人型アトピー治療、脱ステロイド・脱保湿療法』(柘植書房新社)など、複数の医師の意見や書物、文献などを参考に、「脱ステ」というプロセスへの理解を深めていこうと思います。
わたしのように無手勝流でやって、どえらい離脱性皮膚炎に見舞われるというリスクも減らせるかもしれません。
脱ステロイド、脱保湿の方法
ステロイドをやめようと考えるきっかけはおおむね、
- 効かなくなった。
- 副作用(感染症、膿疱など)が出ている。
- ステロイド皮膚炎が生じている(気がする)。
- 一生、薬を使うことに対する不安
このとき問題となるのは、そういう患者を支えてくれる医療機関が極端に少ないということです。脱ステのリバウンドによる重症化をどう乗り越えるかというのは大きな不安。ふつうなら専門家にサポートしてほしいと願います。
自力でトライしてうまくいかず悪化。病院に駆けこんで冷めた対応をされる、という経験のある方もいらっしゃるかと思います(わたし)。
そこでまず、脱ステにまつわる疑問を解消していきたいと思います。
脱ステロイドは必要?
佐藤医師はこう断言します。
その根拠は、脱ステロイドによってほとんどの患者がよくなるのを長年現場で見てきたことにあるといいます。
佐藤医師の話を裏づけるデータもあります。
大阪府の医師ら8人が2015年、7つの医療施設で患者300人を対象に半年間、ステロイドを使わず経過を観察したところ、アトピーの改善率(症状が改善、完治した割合)は、
- 乳幼児……75%
- 小児……52%
- 成人……80%
とくに乳幼児では被験者118人のうち28人がたった半年で症状が消失。完全に治ったそうです。
半面、ステロイド外用薬を使った際の改善率を調べた報告(九州大学の教授らが2003年、1271人の患者の変化を調査し発表)でのアトピー改善率は、
- 乳幼児……36%
- 小児……40%
- 成人……37%
まとめると、
つまりステロイドを使おうが使うまいが、大差はないということ。いや、むしろこのデータを見るかぎり、乳幼児と大人に関しては、ステロイドを使わず自然治癒をめざすほうが合理的といえそうです。
脱ステロイド療法の基本的なやり方
- 食生活を見直す(といっても特別なものではなく、バランス重視)。
- アレルギー(IgE)のある食べ物の制限はしない。
- 睡眠などの生活リズムを正す。
- 乾燥による悪化がある場合、保湿する。
- かゆみは抑えない(かいて出血しても放置か保湿のみ)。
- 身体を動かす(運動する)。
場合によっては、入浴を控える、石けんを使わない、化学物質を避ける、といった指導もあるそうです。医師のもとでおこなう場合、感染症対策に抗生物質(内服)が処方されることもあります。わたしは服用を断固、拒否すると思いますが(笑)。
保湿の是非に関しては諸説ありますが、佐藤医師によれば、ステロイドや保湿剤を長らく使用している場合、保湿依存に陥っているケースが多いとのこと。このケースでは、保湿をやめることで、脱ステロイドがうまくいくケースが多いとか。くわしくは後述します。
さらに、こうしたことにも留意するといいようです。
- 消毒しない(脱ステ期は、皮膚が過度に敏感だから)
- 水分摂取を控える(浸出液が増えるから)
- 浸出液をぬぐわない。
- かさぶたをはがさない。
- 高たんぱく食(皮膚の修復のため)
独力で脱ステをおこなう場合のやり方でもっとも大切なのは、
1日に数度使用しているなら、まずは1日1回にして、風呂からあがったら即塗る。1週間後からは、入浴後1時間たってから塗る。2週間後からは入浴の2時間後に塗る、というふうにして、段階的に減らしていくといいそうです。
塗布する面積を徐々に狭くする、量を減らす、というのでもいい。とにかく時間をかけることが大切とのこと。
もうひとつ重要なのは、
そのほうが楽だからだそうです。
この際、顔や手などの見える部分はあとまわしにして、他人の目に触れない部分から始めるといいそうです。それでまずは手応えを感じる。するとモチベーションが高まりますね。離脱に必要な時間もわかります。
こうしたことを地道に実践することで、個人差はあるものの、おおむね1年ほどでステロイドなしに症状をコントロールできるようになるといいます。
ここで注意が必要なのは、薬や保湿をやめたただけで症状が消えるわけではないということ。当前ですね。ステロイド依存症(ステロイドの副作用)による皮膚症状と、もともとのアトピーは別物。ステロイドが完全に抜けてもアトピーはそのまま残ります。
アトピーを治そうというなら、別のアプローチが必要なことは言うまでもありません。
脱ステロイド、脱保湿のリバウンド(離脱症状)
ステロイド離脱皮膚炎の症状はこうしたものです。
- 赤み
- むくみ
- 浸出液
- 皮膚がじゅくじゅくする
- 亀裂
わたしはすべて経験しました。
ステロイドのリバウンド(離脱症状)過程については、この記事がくわしいです。わたしの脱ステの過程もおおむねこんなものでした。
この際、保湿剤を使っていると、赤みがいつまでもとれないということが少なくないそうです。佐藤医師らが名古屋市立大学で脱ステ患者100人を対象に実施した調査によると、
- 10人の軽症患者は保湿剤を使っていても赤みがとれた。
- 90人は保湿剤を使っているあいだは赤みがとれなかった。
保湿に依存していると、本来の皮膚機能を取り戻せないということのようです。わたしはずっと「保湿にあまり熱心だと、皮膚が仕事を放棄する。本来のバリア機能が後退してしまう」と考えていましたが、それはやはり正しかった(笑)。
というわけで、脱ステと脱保湿はワンセットと考えるべき。が、脱保湿も一筋縄ではいかない様子。脱ステロイドと同じくらいの離脱症状が起きるからです。
保湿の離脱による主な症状は、
- 浸出液
- 亀裂
- 落屑
その後、乾燥によるガサガサ期を通過して、正常になっていくとのこと。落屑は保湿依存によるものであった、ということのようです。
脱ステロイドにかかる期間
ステロイドの成分が身体から排出されるのに必要な期間は1か月程度。ただしその影響はその後も継続するといいます。それがいつ終わるかはわからないと、脱ステロイド療法の専門家は口をそろえます。
1~2年が経過し、湿疹などが出なくなれば完全に抜けだせたと判断するそうです。
ちなみに脱保湿には3か月程度かかるといいます。
離脱できる人とできない人
脱ステに失敗する患者は少なくありません。わたしは一度は大敗を喫しました。離脱が不可能なケース、というのもあるのでしょうか。
佐藤医師は「正しく行なえば確実によくなる」と太鼓判を押します。失敗するのは、やり方がまずいからだとか。が、正しくやっても次のような理由から非常に困難と指摘します。
- かゆみ
- 痛み
- 睡眠不足
- 不安
- 気分の落ち込み
なかには仕事をやめざるをえないケースもあります。離脱性皮膚炎があまり重篤な場合は、入院したほうがいいと佐藤医師はアドバイスしています。
脱ステロイドでの入院
患者に入院を勧めるのは、浸出液や落屑の量がとくに多い場合。もしわたしがあのころ診察を受けていたら、即刻入院させられていたことでしょう(笑)。
佐藤医師が采配をふるう阪南地中央病院では、
2週間で退院する人がいる半面、5~6か月も入院する人がいるとか。こうなると入院費はもかさみます。実際に阪南病院に入院したという方によると、
さいごに
ステロイドに副作用なんてないと強弁する医師がいる。彼らは、脱ステロイド療法をアトピービジネスと断じて批判する。一方、ステロイドがアトピーを難治化、重症化させ、ステロイド依存と離脱症状という悪夢をつくりだしていると指摘する医師がいる。
どっちが正しいのか。
その答えは、患者一人ひとりがじっくり考えて答えを見つけるほかありませんね。
A prospective study of atopic dermatitis managed without topical corticosteroids for a 6-month period. Fukaya M, Sato K, Yamada T, Sato M, Fujisawa S, Minaguchi S, Kimata H, Dozono H
Clinical dose and adverse effects of topical steroids in daily management of atopic dermatitis Br J Dermatol 2003; 148: 128-133 Furue M et al,
Current status of atopic dermatitis in Japan. Masutaka Furue,corresponding author Takahito Chiba, and Satoshi Takeuchi
毎日新聞くらしナビ「アトピーにステロイド必須?」(2017年4月8日)
『アトピー治療革命』藤澤重樹・著(永岡書店)
『患者に学んだ成人型アトピー治療、脱ステロイド・脱保湿療法』佐藤健二・著(つげ書房新社)
『アトピー性皮膚炎 患者1000人の証言』安藤直子・著(子供の未来社)
『ステロイドにNo!を 赤ちゃん・子どものアトピー治療』佐藤健二、佐藤美津子・著(子どもの未来社)
『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2009』古江増隆他(日皮会誌)