糖質制限はハイリスクで危険!? 2年間実践してわかったこと

糖質制限は安全? 危険?

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糖質制限にはある種のリスクがあります。糖質制限食を2年間実践。その過程で経験したトラブルなどをお話しします。そこから判明した糖質制限のリスクを指摘。現在糖質制限中という方、これから試してみようという方のお役に立てばなによりです。

糖質制限の是非

糖質制限が大流行しています。炭水化物がいま、人間から目の敵にされています。炭水化物にしてみればまさに青天の霹靂でしょう。なにしろ数千年にわたって、人類の発展と胃袋を縁の下から支えてきたのですから。

わたしも一時期、糖質制限にかぶれていました。だから大きなことはいえません。でも、自分で丸2年以上実践してみて、ある確信を手にしました。

糖質制限はおそらく、日本人の食性にミスマッチな食事法である、ということです。

糖質が、飽食の現代人の健康を侵している大きな要因のひとつであることはまぎれもない事実です。現代の研究では、白米は身体に悪いというのはもう常識。でもこれは、白米や砂糖や精白小麦といった、精製された炭水化物にかぎった話。

未精製の糖質まで十把一絡(いっしょくた)にしてしまうのはおかしいのです。

精製されていない炭水化物(玄米やそば、押し麦、雑穀類、オートミールなど)は、腸内の有用微生物たちにとって大切な食料です。腸内細菌叢のバランスと多様性を維持していくうえで欠かせないのです。

誤解のないようにいっておきますが、糖尿病の方にとっては、糖質制限はまさに救世主です。

現在の医療現場で指導される食事療法(カロリー制限)に従っていても、さらに太っていき、血糖値の調整機能が低下し、病の進行に歯止めがかからないことは少なくありません。やがては投薬、インスリン注射、人工透析とまっしぐらに進む方が後を絶たないのです(そういう知人が何人かいます)。

だから糖尿人の方たちには、つらい食事制限なしで血糖値を完璧にコントロールすることのできる糖質制限食は救命ボートのような存在なのです。

が、アトピーの方のように腸内環境や消化器官にトラブルを抱えている場合、糖質制限はリスクの高い食事法といわざるをえません。わたしは試してみてそう感じました。

2年の糖質制限でわたしの身体になにが起きたか、そこからなにを学んだかをお話しします。

2年間の糖質制限中になにが起きたか

糖質制限でアトピーが改善したという話をよく聞きます。半面、糖質制限だけでアトピーが完治したという話は耳にしない。

わたしは思いました。

  • 糖質制限ははたして安全なのか?
  • 糖質制限推進派の医師たちは、糖質制限こそヒト本来の食性に合致した食事スタイルだから一生つづけるべきだ、そうすればずっと健康でいられる、と鼻息を荒くするが、それはほんとうか?
  • 彼らがいうように、アトピーは糖質の過剰摂取が原因で起こったのか? 腸粘膜は糖質が崩壊させたのか——つまり過剰な糖質がカンジダを増殖させたことが原因だったのか?

そういう疑問が頭のなかにぐるぐる渦を巻きましたので、わたしは自分で試してみることにしたのです。

1.思考力が低下した

開始当初はじつに快調でした。

アトピーが治って以来つづけていた、節制した食生活を放り投げ、友人ともどんどん飲み歩くようになりました。でもなんの問題もない。

糖質制限って奇跡の食事法かもしれないぞ。

ところが、半年後くらいから違和感を覚えるようになったのです。

どうも血のめぐりが悪くなっているように思える。記憶力が落ちた。物忘れがひどくなった。連想力が落ちた。頭の回転数ががくんと落ちている。そんな自覚症状がありました。

ちなみに、脳のエネルギー源はこれまでブドウ糖だけだと考えられてきましたが、最近の研究でケトン体(脂肪からつくられるエネルギー源)も使えることがわかっています。だから糖質を制限しても、頭の働きには影響は出ないというわけですね。

もちろん、ケトン体のことはわたしもよく知っていました。が、現実に自分がボケ老人になりつつあるような気がする。

そのことをどう説明すればいいのか。

友人と外で飲んでいるとき、酔っ払ってつい炭水化物を口にしてしまうことがありました。それがまずかったのかもしれません。わたしの身体のエネルギー代謝システムがブドウ糖サイクルからケトン体サイクルに完全に切り替わっていなかった可能性も否定できないからです。

糖質制限擁護派ならそう説明するはずです。

でも、ふつうに暮らしていたら、たまにはごはん類や麺類、甘い物を口にすることもあるはず。それさえダメ! というのなら、ふつうの人に糖質制限食は向きません。エネルギー代謝による説明はどうもわたしの腑に落ちない。

そうではなくて、文字どおり「血のめぐりが悪く」なっているのではないか、血液がどろどろになっているのではないか、そうわたしは考えました。糖質制限中は便秘がちでしたし、血液が汚れていたのはまちがいありません。

2.食物アレルギーを発症した

糖質制限では、卵やチーズは優秀なたんぱく補給源として積極的に食べるよう推奨されています。それに従っていたら、卵黄と卵白に対して強度の、チーズに対しては中程度の食物アレルギーとなってしまいました。

アレルギーの発症は、糖質制限を開始してから半年後、検査で判明しました。

糖質制限は腸内フローラを悪玉菌優勢に傾けやすく、それによって腸壁が傷つくと、ひんぱんに食べているものに食物アレルギーを発症することが少なからずあります。

3.肌にトラブルが生じた

卵と乳製品の除去食に切り替えたら、それまでの首筋の炎症と胃腸の不快感は数週間で消え去りました。

意を強くして、わたしはその後も糖質制限をつづけました。

すると今度はその半年後あたりから疲れやすくなり、お尻と首のうしろ側にぷつぷつと小さな湿疹のようなものが出現しました。かゆみはありません。

その後、肘の内側に丘疹ができ、こちらは少しかゆみがあったために引っ掻いたら、傷になってしまいました。それがいつまでもふさがらない。傷からはたまに出血があります。

しばらくやきもきしていましたが、アトピー特有の皮膚症状(強い掻痒感、湿疹、赤み、角質化、蕁麻疹など)があらわれる気配はありません。ただ湿疹も傷も治らない。転んで怪我をすると、治りが異常に遅い。たんぱく質なら有り余るくらい食べているのに、どういうわけなのか。

そういう状態が長らくつづき、ついに湿疹や丘疹がかゆみを持つようになったのでした。

この時点でようやく気づきました。

糖質制限で、腸がまた弱ってしまった。食物たんぱくや食毒(食べ物の有害成分、カビ農薬、重金属、添加物など)が体内に吸収されてしまっているか、あるいは動物性たんぱくと動物性脂肪の摂りすぎで、老廃物や毒素の蓄積が進んでいる。それが皮膚に浮き出てきているのではないだろうか。血液は汚れているし、肝臓は弱っている。慢性疲労気味なのが、なによりの証拠だ。

このままではまずいと感じ、この時点で糖質制限を打ち切ることに決めました。

食生活をもとに戻すことで――高アルカリ食少食&朝食抜き(1日2食)などで再発は免れました。

試してわかった、糖質制限の危険性

糖質制限には、糖質による血糖値の上昇と、内臓脂肪の蓄積(メタボ)を回避できるメリットがあります。血糖値上昇と内臓脂肪はどちらも炎症に拍車をかけるものですから、アトピーの方にとっては、

  • 糖質制限は、食事による炎症の増悪を防ぐことができる。

という利点が得られます。

  • カンジダに餌を与えないことで、増殖を抑制できる。

ということもあります。

半面、糖質制限(肉食中心の食生活)には、アトピーの方にとって次の3つの欠点があるとわかりました。

  1. 腸内環境が悪化しやすい。
  2. 食物アレルギーを発症しやすい。
  3. 体内に老廃物や毒素が溜まっていく。

糖質制限が危険な理由1.腸内環境の悪化

お肉や(動物性脂肪)をたくさん食べる食事法です。当然、大腸では悪玉菌が増えやすい。便通は確実に悪くなります。野菜をたっぷり食べていても、です。

もちろん、サプリぬか漬けなどから乳酸菌を十分に補給するよう心がけていました。それでも悪玉菌の繁殖は食いとめられなかったようです。

こうした悪玉菌優勢の環境では、腸が衰弱します。腸粘膜が隙間だらけになりやすい。実際にそうなってしまうと、体内に食物たんぱくや食毒が侵入するようになります。これは、アトピー発症のいちばん初期の段階です。

それにくわえて糖質制限では「おなかが減ったらいつでも食べていい」ということになっていますから、それまでの1日2食や少食とは打って変わっていつも満腹になるまで食べていました。このため胃腸はずっと消化に追われていて、休息をとる暇がない。傷ついた腸粘膜を修復する時間も確保できないのです。

糖質制限が危険な理由2.食物アレルギーを発症

腸壁が壊れている状態で同じ食べ物を何度も食べていると、食物アレルギーを発症します。

次第にスコアがあがっていき、やがてはそれを口にするとはっきりした自覚症状をともなうようになるのです。過敏症を起こしやすい卵やチーズを毎日大量に食べるなどという愚行は、たとえアトピーが治っていても厳に慎むべきだったのです。

糖質制限が危険な理由3.老廃物や毒素が溜まる

肉や魚は酸性食品です。酸性食品は、血液を酸化、酸性化(酸性側に傾ける)させます。事実、酸性食品を食べると尿のpH値が下がる、反対にアルカリ性食品を食べるとpH値があがるということがいくつもの研究でわかっています。

平たくいうと、血液がどろどろになるのです。排泄されないぶんは悪血(毒素を大量に含む、どす黒い血液)となって体内に蓄積していきます。

また、動物性食品は消化吸収に大量のエネルギーを要します。とくに動物性の脂肪は肝臓に大きな負担をかけますので、肝機能の低下を招きます。さらに体内で動物性食品が代謝される際には老廃物がつくられますので、の過剰摂取によって身体に老廃物がどんどん溜まっていくのです。

糖質制限では蒸溜酒ならいくら飲んでもOKということになっています。それまでの禁酒生活の反動から、毎晩お酒を飲んでいたということも肝臓を弱らせ、老廃物を溜める一因となっていたように思います。

あるお坊さんが自費出版なさっている書籍『医学博士はなぜ菜食するのか』(釋妙蓮/奧雲柏列、Miao Lien Shi)に、こんな記述がありました。

古の漢方によれば、「血液の濁りは万病の源、万病は酸から起こる」という。あらゆる病の源は「酸毒」であり、体質が虚弱だということは、つまり体内の酸化が進行した状態で、全身の細胞に活力がなくなり、疲労感や倦怠感に襲われる。体の中に酸毒が増えすぎると、細胞が大量に死亡してしまい、これこそが疾病の原因なのである。酸毒の増加は脳細胞にも影響し、記憶力の減退や神経衰弱などを引き起こす。また肝細胞が活力をしなうと、肝臓の解毒機能や、胆汁分泌機能の低下も招く。

先天的な体質虚弱は、胎児として母体から栄養摂取する過程において、母体の酸毒をも取り込んでしまったためである。母体内の酸毒が多ければ、生まれてきた子供はすでに体内に多くの酸毒を摂取した状態であり、身体虚弱で病気にかかりやすい。

糖質制限でわたしが頭の働きが鈍くなったと感じた理由が、明快に説明されているように思いましたので、引用しました。このお坊さんのことは、医学博士であるということのほかはなにも知りません。

糖質制限にはアトピー再発のリスクがある

糖質制限食の裏側では、ゆっくりと身体が蝕まれていたのです。あのままいけば、たぶんアトピーを再発していたでしょう。

糖質制限推進派は、糖質をあたかも極悪人のようにあつかいますが、食生活にはやはり中庸、つまりバランスが大切なのだと悟った経験でした。

2年間の糖質制限食を通して得た結論は、

長期間の実施は絶対にNG! 状況はますます悪くなる。

これはアトピーの方の場合です。消化器官(胃腸)、解毒排泄器官(肝臓、腎臓)、腸内細菌が健康かつ強靭であれば、どんな食生活を送っていても問題ないのかもしれません。

なお、糖質制限は重症アトピーの症状を一時的に抑えるのには使えると思います。薬よりずっと効果的です。ステロイドのリバウンド対策にも使えそうですね。わたしはつらいリバウンド期を過ごしましたが、糖質制限を知っていたら、あんなに苦しまずにすんだでしょう。

まとめ

アトピーの方が押さえておくべきなのは、

  • 精製糖質は身体に悪いが、未精製穀類を否定する必要はない。
  • 糖質の摂取で症状が増悪するのは、体内で炎症が起きているから。

炎症がなぜ起きているのか、そちらに目を向けるのが正しいということです。

おまけ

ヒトの身体はそもそも糖質に適応していない、と糖質制限推進派の方たちは主張します。この仮設に対する当ブログの見解をこちらにまとめました。アトピーとは無関係のお話ですから、興味のある方のみご覧ください。


『糖質制限の教科書』(洋泉社)江部康二・著、『わたしたちの「糖質オフ」 ~人気インスタグラマーが実際に痩せたおかず80と体重記録』(マイナビ出版)わたしたちの編集部・著・編、水野雅登・監、『「緩やかな糖質制限」ハンドブック』(日本医事新報社;)山田悟・著、『世にも恐ろしい「糖質制限食ダイエット」』(講談社) 幕内秀夫・著、『「糖質制限」その食べ方ではヤセません』(青春出版社) 大柳珠美・著、『本当は怖い「糖質制限」』(祥伝社)岡本卓・著、『ビジュアル版 糖質制限の教科書』(洋泉社)江部康二・著、『スーパードクターズ! いま、糖質制限がすごい』(ぴあ)宗田哲男、 藤澤重樹、新井圭輔、今西康次、溝口徹、水野雅登、門脇晋、小幡宏一、長尾周格、三島学・著、『主食をやめると健康になる ー 糖質制限食で体質が変わる! 』(ダイヤモンド社)江部康二・著、『「糖質制限」は危険!―矛盾だらけの「糖質制限」論 「糖」こそ、命にとって最重要の栄養素』(海竜社)石原結實・著、『ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか』(光文社)宗田哲男・著、『炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学』(光文社)夏井睦・著、『よくわかる! すぐできる! 「 糖質オフ! 」健康法 』(PHP研究所)江部康二・著、『医者が教える食事術 最強の教科書――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』(ダイヤモンド社)牧田善二・著、『江部康二の糖質制限革命』(江部康二・著)江部康二・著、『人類最強の「糖質制限」論 ケトン体を味方にして痩せる、健康になる』(SBクリエイティブ)江部康二・著、『糖質制限の真実 日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて』(幻冬舎)山田悟・著、『増補新版 食品別糖質量ハンドブック』(洋泉社)江部康二・著、「A randomized trial of a low-carbohydrate diet for obesity.」(New England Journal of Medicine, 2003)Foster GD「A low-carbohydrate as compared with a low-fat diet in severe obesity.」(New England Journal of Medicine, 2003)Samaha FF「Effects of a low-carbohydrate diet on weight loss and cardiovascular risk factor in overweight adolescents. 」(The Journal of Pediatrics, 2003)Sondike SB「A randomized trial comparing a very low carbohydrate diet and a calorie-restricted low fat diet on body weight and cardiovascular risk factors in healthy women.」(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2003)Brehm BJ「The national cholesterol education program diet vs a diet lower in carbohydrates and higher in protein and monounsaturated fat.」(Archives of Internal Medicine, 2004)Aude YW「A low-carbohydrate, ketogenic diet versus a low-fat diet to treat obesity and hyperlipidemia.」(Annals of Internal Medicine, 2004)Yancy WS Jr「Comparison of energy-restricted very low-carbohydrate and low-fat diets on weight loss and body composition in overweight men and women.」(Nutrition & Metabolism, 2004)JS Volek「Comparison of a low-fat diet to a low-carbohydrate diet on weight loss, body composition, and risk factors for diabetes and cardiovascular disease in free-living, overweight men and women.」(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2004)Meckling KA「Perceived hunger is lower and weight loss is greater in overweight premenopausal women consuming a low-carbohydrate/high-protein vs high-carbohydrate/low-fat diet.」(Journal of the American Dietetic Association, 2005)Nickols-Richardson SM、「Short-term effects of severe dietary carbohydrate-restriction advice in Type 2 diabetes.」(Diabetic Medicine, 2006)Daly ME、「Comparison of the Atkins, Zone, Ornish, and LEARN diets for change in weight and related risk factors among overweight premenopausal women: the A TO Z Weight Loss Study.」(The Journal of The American Medical Association, 2007)Gardner CDWIKIPEDIA「低炭水化物ダイエット」