共生微生物の驚きの役割! 腸内細菌は健康の守り神

腸内細菌

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ヒトの腸管には100種100兆個の共生微生物が暮らしています。腸だけでなく、耳のなかから皮膚まで、微生物はどこにでもいて、わたしたちのからだを守ってくれている、人体の「器官」なのです。体内の細菌のバランスと多様性が失われることは、健康を害することに直結します。くわしく解説しますので、興味のある方のみお読みください(笑)。

わたしたちの身体と腸内細菌の関係

わたしたちの腸内には100兆個(1000兆個とも)の細菌がいて、アマゾン川流域の熱帯雨林やモルディブのサンゴ礁のように多様な生態系を形成しています。

およそ1000種(100種とも)の腸内細菌はそれぞれ小さな集落をつくり、その多くは長さ1.5メートルの大腸のひだに隠れるようにして暮らしています。

わたしたちが一生のあいだに排泄するうんちの総重量は、大型トラック数台に満載できるくらい! そのほとんど(75%)は細菌です。便には生きている菌もいれば、死んでいる菌もいますけれど、いずれにしろわたしたちは生まれてから死ぬまでに大型トラックの荷台数杯分のうんちをするというわけです。

そしていま現在も、おなかのなかには1.5キロの細菌が生きているのです。

細菌はだけでなく、人体のほかの場所にも棲んでいます。たとえば指先1本に、日本の人口の半数に匹敵する数の細菌がいます。口や鼻、耳の穴、腸管、肌、女性の場合は膣にも繁殖しています。

マイクロバイオーム

人間の身体の各部位――皮脂の多い顔や背中、乾燥した腕や足、汗が多くて温かいおへそや股間、脇の下など――は、その環境に適した細菌たちの居住地となっています。そこにはさらに小さな棲み家がたくさんあって、それぞれの細菌が家族のように肩を寄せ合って暮らしています。

表面積を合計すると2平方メートルほどになる皮膚には、日本の国土全体よりはるかに多様な生態系が息づいています。顔や背中などの皮脂の多い場所にいる菌と、乾燥した皮膚にいる菌は異なります。アフリカの生態系と、南極の生態系がまったく異なるのと同じです。

わたしたちの肌にはもともとバリア機能がありますが、共生細菌は肌の上にさらにバリアを張って、二重の防御壁を築いています。有害な細菌が素肌にくっついても、彼らが阻んでいるのです。まさに肌の門番です。守りの手薄なところから体内に侵入しようとする外敵を阻んでくれているわけです。

腸内細菌がいなければ、心と身体の健康は維持不可能

口の中には多様な細菌が棲んでいます。が、その先の胃では彼らのの姿はほとんど見られません。胃酸がほとんどを殺してしまうからです。

胃に暮らす細菌の代表はピロリ菌です。ピロリ菌は一時期、胃がんの原因として目の敵にされましたが、現在はピロリ菌がいることで得られる利点(食べ物に無用のアレルギー反応を起こさないようにするなど)もたくさんあることがわかっています。

小腸に入ると、細菌の数はぐっと増えます。全長6~7メートルの小腸の入口付近では1ミリリットルあたり1万個ほど。これが小腸の出口(大腸の入口)になると、1ミリリットルあたり1000万個にもなるのです。彼らは消化だけでなく、わたしたちの身体のホルモン分泌にも関与しています。

大腸では、共生細菌の数は1ミリリットルあたり1兆個にもなります。

腸壁の折り目やくぼみに潜み、小腸で消化吸収されなかった食物を代謝し(人間に喩えるなら、食べて排泄し)、排泄物を腸壁の細胞に吸収させています。それが腸壁の柔軟性と収縮性を保っているのです。もし腸内細菌がいなければ、わたしたちの腸はすぐさましなびてしまい、使いものにならなくなってしまいます。

人間の身体の大部分は血糖をエネルギー源として使いますが、腸壁の細胞のおもなエネルギー源は共生細菌のうんちなのです。アマゾンのジャングルのように温暖湿潤で、ところどころで無酸素状態となる大腸は、わたしたちが食べたものを微生物に分け与えるエサ場なのです。

こうした腸内細菌のバランスと多様性が崩壊するで起きる健康被害は、ほんとうにさまざまです。アレルギー、胃腸疾患、自己免疫疾患、肥満……。もちろんアトピーも含まれます。最新の科学ではそうしたエビデンス(証拠)が次々に見つかっています。

肉体的な疾病だけでなく、微生物は精神的な問題にも深く関係しています。ストレス、うつ病、ノイローゼ、ヒステリー、パラノイア、自閉症、ADHD――こうした心の病気にも関与しているのです。

わたしたちが人生の一部として受け入れている病気の多くはどうやら、遺伝的欠陥のせいでも、気力や体力の衰えのせいでもなく、ともに生きる共生細菌を大切にしなかったことが原因のようなのです。

米国の国立衛生研究所や世界中の研究機関が、わたしたちの健康と幸せは微生物しだいであることを次々に明らかにしています。わたしたちは微生物に頼る格好で進化してきたのです。もし体内から微生物が姿を消してしまったら、真にヒトと呼べる部分はわずか1割しか残りません。

ヒトの細胞は37兆個。その9倍の数の細菌たちが、わたしたちの体内にはいるのです。

腸内細菌を守ることの重要性

わたしたちは、多様な微生物の宿主です。わたしたちは共生細菌たちとともに進化してきたのです。

一人ひとりの細菌叢(バクテリアの構成)は3歳までに決まり、成人してからも同じような構成を維持しようとします。そしてこの細菌叢は免疫システムと密接に関わっています。わたしたちの健康の担い手は、細菌叢であるといってしまってもいいくらいです。

ところがその一部が失われることが多くなっているのです。飲食物に含まれる化学物質や、抗生物質や消毒薬などの薬などによってです。

熱帯雨林やサンゴ礁を保護しなければいけないのと同じように、わたしたちの身体にいる小さな生き物たちも保護しなければいけません。そして大切に世話してやる必要があるのです。

なぜなら100兆個の細菌たちにはそれぞれ、わたしたちの身体にとって大切な仕事を担っているからです。もしその細菌が宿主にとってなんの役にも立っていないとしたら、やがて宿主の身体から追い出されてしまっていたはずです。考えてもみてください。外界からの侵入者を組織的に駆逐し、排除することを生業にする免疫細胞たちが、どうしてこんなにも多くの細菌の侵入と居住を許可しているのかを。

共生微生物は、心臓や肺、腎臓や肝臓と同じように、わたしたちの生命維持に必須の「器官」といっていいのです。

さいごに

腸内細菌の大切さがわかったところで、ぜひ腸内環境の健全化と、腸内細菌の育成にとりくんでください。